国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人間情報研究部門 研究部門長

持丸 正明(博士)

持丸 正明(博士) 我々は、まず「靴型に基づく革靴をきちんと作ろう」と、正統品質の管理ガイドラインを検討し靴型を開発しました。その靴を伊勢丹や三越の百貨店で試験販売を実施。そうこうしている内に、「認証制度をつくらなければだめなんじゃないか」と言う声があがり、改めて全靴協連から開発プロジェクトの提案がありました。それは3年計画であり、いま2年目が終わろうとしています。

この革靴は、天然皮革による国産革靴で、ファッション性を兼ね備え、完全なテーラーメイドではなく、基本的には量産できるようなものをめざしています。最初に履いたときにフィット感が良く、実際に使っているときに価値が出るもの。つまり“バリュー イン ユース”を大切に。
それはリピートしていただくお客さんをつくること。「この靴をまた買おう」と言うお客さんをつくっていくことが、このプロジェクトの大事なコンセプトなのです。さらに大事なのは、ハードウェア(靴)とサービス(販売、修正、顧客管理)をすり合わせることです。いかにお客さんを巻き込んで価値をつくっていくかということを靴でやりたいのです。
我々が実験室で集めたデータと、「パンプスメソッド研究所i/288」で集めた顧客データがリンクする。革靴とサービスが一体になって、お客さんと共に新しい価値をつくっていけるようにする。お客さんがどの靴型でお求めになったのか、靴型と調子が合わない場合にどのような改善をしたのか、それらが全部繋がった情報として溜まっていくことが、靴産業にとって新しい資産になっていく。これが私のいちばん望んでいることです。

靴というのは、未だに「ピッタリ合うものが見つからない」「いい靴に出会ったことがない」「フィッティングが難しい」「仕方がない」「形が合わない」「サイズが左右違う」と言う方たちが多く存在する、ものすごく事前期待の低い商品です。
JISではたくさんサイズが規定されているのに、必ずしも全部が生産流通されているわけではない。我々のめざすものは “革靴と顧客接点を統合したソリューション”。それが価値になり、同時に強みにもなると思います。
「私は今まで一度も合う靴がなかった」と言ってたお客さんが、すごく喜んで帰られた。その体験が価値です。そしてその方がお家へ帰って靴を履いて、またこの靴を買いたいと思われること。それが価値です。その体験を生み出すことが価値なのです。

これから、何をやっていくべきか
今までですと、卸しの方はその靴が何の靴型で作られたのかは知りません。販売店の方はお客さんが買った靴はわかるけど何の靴型でできているか、という情報を手にすることはできません。一方で、メーカーの方は靴型の情報は持っているけれど、最後にどなたが購入されたかはわからない。情報が切れているんです。
しかし、認証事業の靴型は共有できます。共有した靴型に、みなさんがアクセスすることができる。そして自分のところに来たお客さんの足型とその靴型が、なぜ合うのかというのを知ることができる。つまり、部品と製品とお客さんの足と、そういうものが全部繋がるということになります。
「パンプスメソッド研究所 i/288」は12月からスタートしたばかりで、まだ宣伝もしていませんが、350人くらいの方が来ています。仙台から来られている方もいました。
SNSなどで「あそこに行けば細い靴がある」「あそこに行けば満足できる靴がある」などと、お客さんが口コミで広げてくれています。お客さんが自ら宣伝をする係りになってくれています。お客さんにもサービスに貢献いただいているわけです。
そのためにも、我々はきちんと靴型を作らなくてはならないし、きちんと靴を作らなきゃいけないと思います。同じ靴型で作ったのに、「こっちの靴、あんまり品質良くないじゃん」「買ったけどイマイチだったね、もう買わない」となってしまっては、結果的に売れなくなり、ブランドを短期消耗してしまいます。

やるべきことの1つ目は、“基盤となるものづくり力を強化する”こと。
基準靴型から同じサイズ感の革靴が安定して作られるようにする。
“認証ブランド”の品質管理をして、同じ靴をまた買っても、履きごこちが裏切られないという顧客の安心感をつくる。これが長期的なひとつの価値となります。

やるべきことの2つ目は、“価値を生み出すサービス力を強化する”こと。
色をカスタマイズしたり、お客さんが楽しめるカスタマイズをする。お客さんの求める価値を高めること。
モノだけで主張しないで、ここにサービスを絡める。お客さんが靴に愛着を持てるように、長く靴を履いていただけるように。お客さんが積極的に貢献したくなるようなサービスです。この認証靴であってこそのサービスが組み合わさって、サービスと靴が分離不可能になる価値を見出せれば、これが“競争力”になります。

やるべきことの3つ目は、“データを知識化する”こと。
靴情報と顧客情報がひとつになるようデータを共有すれば、それは一社ではなく業界全体が“ひとつの靴屋さん”。但し、持っているだけではデータは負債です。データは使えるようにしなくてはならない。それを我々は“知識”と呼びます。データから分析したものを靴型に転化したり、販売方法に転化する。お客さんの価値に繋がり、みなさんの収益にこのデータを加工しなければなりません。

やるべきことの4つ目は、“エッセンスを絞り込んで販売チャネルを展開する”こと。
何を残すかが決まらなければ展開はできない。“i/288”を真似たブランドが次々とできたのでは、何のためにブランドをつくったのかわかりません。いったい何を守れば、最後に顧客の価値が担保できるのか。いずれオンラインショップは、何をもって「パンプスメソッド研究所 i/288」なのかということを考えていかなくてはならない。今回の大きな宿題です。

これから、どこへ向かうべきか
“皮革-部品-製造-卸-小売-顧客”の産業エコシステムとして海外市場へ展開しましょう。
一社一社でやるのではなくて、“産業エコシステムの靴屋さん”として取り組む。
お客さんも巻き込んで価値をつくりだす。靴型や革靴単体が競争力ではありません。価格が競争力でもありません。ブランドに頼っている海外と違って、我々はこのエコシステムを使ってトータルソリューションとしてお客さんに価値を売り込めるようにする。このエコシステムを海外より先につくるんです。そのために靴型があって、「パンプスメソッド研究所 i/288 」があって、これから販売システムなどが出てくる。顧客を巻き込む業界全体のサービスというものが、このプロジェクトで最終的に生み出す競争力の源泉だと私は思っています。これが認証事業のいちばん上位にある概念です。

今後は、販売を通じて得られた顧客データのビックデータマイニングにプロジェクトを移していくというような構想を持っています。