司会 前段のお話では、それぞれのお立場で興味深いお話をお聞きしましたが、これからこの認証事業をどのように展開していこうとお考えですか?

渡邉 ものづくりのパラダイムをシフトしていかなきゃいけないと思います。従来の大量生産、大量消費ではないということです。
特に日本の靴メーカーはOEM 体質が強いですから、言われるとおりに、言われるものを言われる量だけ、言われた価格で、言われた期間で、一生懸命頑張ってやっていれば、それはそれでビジネスになったという時代は確かにあったんです。
でも、それでは通用しなくなってきた。しっかり付加価値をつけていきながら、靴業界そのものを変えていくことが、いま問われているわけです。
海外で生産の一部を作り、日本でノックダウンするというやり方も、必要に迫られてやらざるを得ないこともありますが、今後は“日本のものづくり”の強みをしっかりと活かして、海外のものづくりに対抗できる力をつくっていく時期がきたと思います。

司会 先ほど、「お客さまをまき込んで一緒にサービスをつくっていく」というお話が出ましたが。

渡邉 そうですね。でもやっぱり靴って、けっこう難しいですよね。

藤原 けっこう、どころじゃないですね。(笑)
A さんに合わせれば合わせるほど、B さんに合わなくなりますし。
また、A さんの足の形も変わるんですよね。朝と晩でも違うし、お酒を呑んだ日と呑まない日の翌日も違うし、体調によってぜんぜん違うんですよね。
さらに、素材の革も部位で伸び率が違ったりするので同じテンションで靴作りしても、こっちは伸びて、こっちは伸びなかった、ということもあるんです。

持丸 私は産総研でさまざまな業界と仕事をしますが、ものづくりが、サービスにのり出して顧客と関係を結ぶということが、ほぼすべての業界に起きていると感じているんです。

司会 新しい価値ということでしょうか。

持丸 そうです。だから、販売店にとっては当たり前かもしれませんが、お客さんと一緒に合う靴を選んで、お客さんが喜んで、価格も受け入れられていく。

渡邉 そうですよね。だから、作り手の意識も「i/288を作るから、早く靴型くれ」という、単純な発想ではないんです。靴型さえ貰えれば、今までと同じ作り方で提供すれば、それでいいって思っているところに大きな間違いがあるんですよね。

持丸 そう、それが“靴型は価値じゃない”ということです。

渡邉 ただ作るだけじゃなくて、売り方も含めたトータルパッケージでの企画立案っていうのをどうできるかっていうことです。その部分をどうやってサービスに展開していくか... なかなか課題はあると思います。
だから、「作り方のガイドラインはもちろん、売り方のガイドラインもつくれ」と、持丸さん言ってましたよね。

持丸 そうなんです。

藤原 収益率をもっとも落としているのが、靴の場合はたぶん在庫なんですよね。
売れているときは、在庫があればあるほど売上が上がっていくからいいんですけど、売れないと、在庫が収益を落としてしまうんですよね。特にサイズが多いものは。なので、やっぱりどれだけ在庫を持たなくて済むかっていう仕組みは、我々サプライヤー側がしっかり入って、お客さんの足に対応したものをスピーディーに作れるよう、例えば、材料は我々が持っていて、無駄なく必要な靴を提供できるという仕組みは絶対つくった方がいいと思っています。

持丸 そうですね。

藤原 メーカーは、材料を集めるのがいちばん苦労します。あれだけのパーツを集めるのは、すごく大変なんです。そこで、組合が材料を一括管理してメーカーに振り分ける、どのメーカーも同じように作れるようになれば、忙しいところは今日は依頼せず、暇なところに出すとか、全体を一括コントロールする。メーカーが在庫を持たずに、いかに早く商品を売り場まで届けるかっていうこともできると思っています。

持丸 最低限発注が、途絶えないようにしなくちゃいけないですね。
なぜなら発注が途絶えるとそのラインが閉じちゃうので。

藤原 そうです、どのメーカーも言ってます。(笑)
これだけの材料も含めてペイするようにするには、まぁ、わからないですけど1日に1,000足作ると、年間の稼働日が約260日ですので、年間26万足です。100足だと2万6千足、世界をマーケットにできたら、1日に10,000足、260万足をめざしたいですね。

持丸 数字はまだ遠いですけど、考えていかなきゃいけないことですね。
話が飛んでしまうけど、台湾人と日本人の足の個人差ってそんなにないんです。しかも台湾は日本と全く同じサイズシステムです。日本とよく似ているので、台湾はこの先マーケットになりうると思います。親日で、日本製品が好きですし。

司会 海外に広げていくことも、この事業のひとつの大きな柱だと思っていらっしゃいますか?

持丸 うん、私はそう思っているんだけどね。
靴業界全体からみたら、日本人の足の数が増えているわけではないので、靴全体が増えるっていうことにはなかなかならない。ということは、新しい靴とか、質のいい靴だとか、日本の靴業界が束になって海外で頑張ることは必要なんです。

司会 そういうところまでを視野に、このプロジェクトのビジョンを考えていらっしゃるんですね。

渡邉 世界の人々に “使用価値の高い日本製の靴” を広げることで、皆さんの生活を豊かに、より楽しくしようっていうのがビジョンなんですよね。

藤原 足って第2の心臓っていわれるくらい、健康にとっては重要なアイテムなんです。「どういう歩き方をすれば健康になれる」とかね、「そのためにはどうしても合う靴が必要なんだ」って言う方がけっこういるはずなので、そういう人たちにも応えていくというか…

持丸 そう、ちょっと話がそれちゃうんですけど、本当に履きごこちの良い靴を履くと、もうひとつの効果として、お客さんが歩く歩数が増えたりとか、距離が長くなったりだとか。
今あまり考えていないかもしれませんが、生活が変わるっていうことも起こるかもしれません。

司会 このあたりで、今までのご苦労などを伺いたいと思います。

持丸 研究そのものは面白くやっているんですけど、苦労したのは、やはり、業界側の意識改革です。業界の方々も頭ではわかっているんだけども、さまざまな事情があって、そう簡単に身体をひるがえすことはできないし、理想論だけでその方向を向くことはできない。ただ、その中でも「一緒にガイドラインをつくりましょう」と声かけしていただいて、販売実証まではできなかったところを一緒にやったりとか、少しずつ具体的になっていったんです。そう、成果を共有しながらね。
大した数じゃなくても売れたりすると、業界でも少しインパクトが出て、だんだん一歩ずつ、話が固まっていって…。

司会 では、同じ質問を、渡邉さまにも。

渡邉 そうですね、まぁ、これからじゃないですかね。(笑)
環境が変わっているのに、変えなきゃいけないのをわかっているのに、身体が動かないと気づいたら手遅れになる。新しい靴づくりをしていこうとなれば、いろんな戦略があるはずなんです。靴を認証することで付加価値をつけて、それで収益を上げていこうというプロジェクトをどうやって本格的にやるかっていう話もそうですが、靴業界にとっては、これもひとつの手段ですから。「今考えなかったらいつ考えるんですか?」って言ったって、誰も考えない。(笑)みんななかなか考えない。うん、それが苦労だったね。

持丸 やっぱり危機感って大事ですよね。
業界が変わるって、ふたつしかなくて、ひとつは危機感。で、ひとつは破壊者が出てくることなんです。でも難しいですよね。急に熱くなるんだったらわかるんですよ。ちょっとずつ熱くなるっていうのはね、やっぱり気のせいなんじゃないかっていろいろ思ってしまう。すごく難しいところなんですよね。

藤原 ある種、僕らは持丸さんに熱湯をかけられた感じなんですよね。

持丸 まぁ、そうなんですよ、各社の中で皆さんが少しでも危機感というか、何か変えなきゃと思って、「とりあえずあっち行くか!」っていう人が出てくるかと思いまして。(笑)

司会 では最後に藤原さんから、メーカーの代表としてひと言お願いします。

藤原 まだ誰も確信がないその絵空事ともいえるような事業を、どう具現するか、カタチにするか。みんな一緒になってどれくらい力を発揮していけるか、すべてこれからで、グレイトビギニングですね。